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高知地方裁判所 昭和30年(ワ)57号 判決

原告 伊藤千代子 外一名

被告 小松康雄

主文

原告伊藤の慰藉料請求を却下する。

被告は原告伊藤に対し金四万九百五十八円及びこれに対する昭和三十年三月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告は原告浜田に対し金六万円及びこれに対する昭和三十年三月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告伊藤のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第二、三項に限り仮りに執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

まず、原告伊藤の慰藉料請求について考えるに、右請求は財産的損害の内金五万円の請求が認められないときはその不足額につき慰藉料金四十万円中より請求するというのであつて、その請求額は一定しないのみならず、条件付申立であつて、かような請求は不適法として却下すべきである。

被告が木材の売買ならびに製材業を営み、原告ら主張の宮木を買受けたこと、原告ら主張の日に右宮木が木馬に積まれ縣道まで運び出される際原告ら主張の道路片側谷間に転落し、右谷川で米をといでいた原告両名を下敷きにしたこと、原告両名は右事故により重傷を負つたことは当事者間に争いない。

被告は右宮木を縣道まで運び出したのは訴外木浦信幸であつて被告ではない旨争うが、証人田村国義、西川与市、浜田花子、浜田安美の各証言を総合すると、被告は右宮木を訴外田村国義から買受け、それを運び出すために訴外木浦信幸を雇い、昭和二十八年十一月十二日右宮木を運び出すときには被告自身もその現場に出ていたことが認められる。右認定に反する証拠はない。従つて右宮木の運び出しは被告によつてなされたことになる。

そこで次に本件事故の発生は被告の過失行為にもとづくものかどうかについて判断する。前掲証人田村国義、西川与市、浜田安美の各証言に検証の結果を合わせて考えると、本件宮木の伐採箇所から前記縣道までの道路の半ばは傾斜が急で、道端には人家があり、木馬を道から脱出させると人畜に危害を加えるおそれがあるので、右道路を経て木材を運び出す者は、木馬が道から脱出しないよう木馬道の両側に枠を取りつけ又木馬を暴走させないようワイヤーでつり下し、ワイヤーが切れたり結び目から解けないよう不断の注意を払い、かつ周囲の人畜に対しては警告を発して待避させるなどの措置をすべき義務があること、ところが被告は右のような注意義務を怠り、木馬道に枠を設けずワイヤーの結び目は不完全であつたため解けたこと、周囲には無警告であつたことが認められる。右認定に反する証拠はない。そうであるなら被告は右注意義務を怠つた点において過失があり本件事故についての責任は免れない。

そこで原告両名の損害について検討する。

(イ)  原告伊藤の損害

証人伊藤功の証言によつて真正に成立したと認められる甲第一号証、同第二号証に証人伊藤功および原告伊藤の各供述を合せて考えると、原告伊藤は本件事故により腰部打撲傷、胸部打撲傷(肺損傷)の傷害を負い、昭和二十八年十一月十二日直ちに伊野町仁淀組合病院及び高知市宮本病院にて応急手当を受け、昭和二十八年十一月十三日から同二十九年二月二十一日まで同市平田病院に入院加療し、(一)入退院の際の自動車賃二千八百円、(二)右平田病院における治療費六千七百七十八円、(三)附添人費一人一日百九十円の百二日分として一万九千三百八十円に相当する物品(親族を雇つた点を考慮に入れると一日の日当は一般の附添人費三百八十円の半額百九十円とみるのが相当である)、(四)滋養物購入費(一日百二十円の百日分)一万二千円、合計四万九百五十八円に相当する出費のあつたことが認められる。

原告伊藤は、なお本件事故により昭和二十八年十一月十三日から同二十九年四月末日まで百四十三日間農業に従事することができなかつたことにより一日二百円の割合による金二万八千六百円の損害を受けたと主張するが、証人伊藤功、原告伊藤本人の各供述によれば、原告伊藤の家は田四反、畑七反位を所有耕作していることが認められるが、原告伊藤が農業により一日平均二百円の収入を得ていたことを認めるに足る証拠はないし、その他農業収入の額を認めるに足る証拠もないから、原告伊藤が右傷害により休業したことによる損害額を確定することはできないので右損害賠償の請求は失当である。

(ロ)  原告浜田の損害

証人浜田実の証言によつて真正に成立したと認められる甲第三号証ないし同第五号証、同第七号証に、証人浜田実および原告浜田の各供述を合せて考えると、原告浜田は本件事故により(一)顔面打撲傷、(二)右肩胛骨ならびに第一、二肋骨脱臼、(三)左肩胛骨々折左第二肋骨、(四)肺臓損傷の傷害を受け、昭和二十八年十一月十二日高知市平田病院に運ばれ、同二十九年二月二十六日まで同院に、同日から同年十二月三十日まで同市氏原病院に入院加療し、右平田病院に三万三千七百八十四円、右氏原病院に四万千四百五十二円、合計七万五千二百三十六円の治療費を支払つたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

従つて被告は原告伊藤に対し金四万九百五十八円、原告浜田に対し金七万五千二百三十六円の損害賠償義務があるから、原告伊藤の請求中右金員、原告浜田の請求中右の内金六万円及びいずれもこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三十年三月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきであるが、原告伊藤のその余の請求は失当として棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本勝美)

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